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継続こそ健全性の証──ストック型ビジネスに不可欠な11のKPIとは

フィットネス事業を営む上場企業のIR情報を見ていて、度々思うことがある。それは、事業の健全性を測るKPIの精度が低く、定量化の余地が大きく残されているのではないかということだ。

もちろんBS、PL、CFといった財務三表は公開されている。しかし、フィットネスというストック型ビジネスにおいて、それだけで経営の健全性を語るのは物足りない。新規出店をすれば店舗数・会員数・売上が伸びるのは当たり前の話であって、それは単なる「量の積み上げ」にすぎない。

ストック型ビジネスの本質は「継続」と「定着」にある。だからこそ、CPA(あるいはCAC)に対して、どれだけLTVを積み上げられているかの視点が不可欠だ。ところが、フィットネス企業のIRにはこの観点がほとんど出てこない。株主や投資家からも、こうした議論が起きている様子がない。これ自体が、個人的には一種の違和感として残る。

片やSaaS業界ではどうだろうか。

SaaS(サース)とは

「Software as a Service」の略で、ソフトウェアをサービスとして提供するビジネスモデルのことを指す。従来、企業が業務システムを導入する際は、自社で高額なサーバーを購入・構築し、システム担当者が管理・保守を行う「オンプレミス型」が一般的だった。それに対してSaaSでは、インターネット経由でサービスが提供されるため、サーバーの設置も管理も不要で、初期費用を大幅に抑えたうえで、必要な機能をすぐに利用できるというメリットがある。たとえば、名刺管理や営業支援、会計処理、勤怠管理など、企業活動に必要な機能を月額課金で提供するクラウド型アプリケーションがこれにあたる。提供する企業側にとっても、一度顧客を獲得すれば、継続的に収益が見込める「ストック型」モデルとなるため、「どれだけ長く使い続けてもらえるか」「どれだけ効率よく顧客を獲得できているか」といった指標が、経営上の重要指標として扱われるのが特徴だ。

目次

SaaS業界の「見える経営」──Sansanの事例から学ぶ

Sansanをはじめとした国内SaaS企業のIR情報を覗いてみると、そのギャップに驚かされる。

Sansanの2025年5月期 第1四半期 決算補足資料には、以下のようなKPIが詳細に記載されていた:

・契約件数:前年同期比10%以上の成長(11,069件)

・月次解約率(Churn rate):0.49%(Bill Oneは0.33%)

・1契約あたりの月次継続売上:約21万円

・Net Revenue Retention(NRR):ネガティブチャーンを実現(既存売上が解約減を上回る)

https://ir.corp-sansan.com/en/ir/news/news-4755610151525915809.html

このように、単なる売上ではなく、「何が継続されており、どれほど効率的にスケールしているのか」まで数字で見える化されているのが特徴だ。

SaaS(B2B)とフィットネス事業(B2C)では前提が異なるため単純比較はできない。特に解約ハードルについては、B2Cの方が圧倒的に低く、反対にB2B領域では一旦導入に成功すれば他サービスへのリプレイスが容易ではないため、双方でChurn rateに差が生じるのは当然といえる。

しかし、それを加味しても、KPIの粒度と開示姿勢においては歴然とした差があることは事実である。

フィットネス事業にも転用可能な11のKPI

SaaS企業が重視するKPIは、単なる業界特有の指標ではなく、ストック型モデル全般に応用できる。フィットネス業界に置き換えると以下の通り:

SaaS型KPIフィットネス事業における対応指標
MRR(月間経常収支)毎月の会費収入合計
ARR(年間経常収支)会費×12ヶ月
ARPU(平均単価)客単価
LTV(顧客生涯価値)平均継続月数×客単価
CAC(顧客獲得コスト)入会1人あたりの広告費(=CPA)
ユニットエコノミクス(LTV/CAC)広告費用対効果※理想値3以上
Churn rate(解約率)退会率
AU(アクティブユーザー数)実際の利用会員数
NPS(推奨度)既存会員による紹介入会件数
CES(顧客努力指標)手続き・利用方法の簡便さ
Time to value(価値実感までの時間)入会から初回利用までの時間

現時点では、フィットネス業界のIR資料にこれらが反映されている事例はほぼ見当たらない。定性情報(顧客満足度、設備の新設、地域連携など)に多くの紙幅を割いている一方で、投資効率や継続性を示すKPIが数値で語られることは少ない。だからこそこれらの指標を導入することで、「入会者数が増えた」だけでなく、「その顧客が利益を生むかどうか」「いつ・なぜ離脱するか」「継続的な価値提供ができているか」といった深い洞察が得られる余地があるのだ。

特に筆者がSaaS業界に身を置いていた当時、社内では「Churn rate」「AU」「CES」「TtV」などのKPIへのコミットが繰り返し強調されていた記憶がある。これらの数値改善を担うのは、カスタマーサクセスと呼ばれる部署で、採用・育成に最も多くの経営資源が投下されていた。一方で、従来の“花形”とされがちな営業職の優先度は相対的に低く、むしろ「解約させない」「価値を実感させる」ことに注力する体制が整えられていた。継続を前提とするストック型モデルでは、KPIの設計思想が組織構造にまで影響を及ぼすという好例だったと思う。

定性的な説明を減らし、「数字で語る」企業へ

IR資料に必要なのは、企業の成長性や競争力を、共通言語で語れることだ。

Sansanのように、Churn、NRR、契約単価といったKPIを中心に開示すれば、「成長の質」が明確に伝わる。逆に、「新サービスを始めた」「継続利用が増えた気がする」「地方自治体との提携」といった定性的な説明ばかりでは、株主との対話も曖昧になりがちだ。これらのKPIは、会員管理システムで集計できるレベルのものも多い。既に存在する会員データ、POS履歴、来店記録、広告出稿履歴などを組み合わせれば、十分に算出可能である。また、こうした指標が整備されている企業は、内部の意思決定も明快で、成長施策の効果検証も迅速だ。

実際、SansanのIR資料からは、既存顧客へのアップセルが進んでいること、契約数が順調に伸びていること、そして解約が極めて少ないことが、すべて数値で読み取れる。これこそが、IRのあるべき姿だと思う。

まとめ

フィットネス業界のIR資料を読み解くと、数字はあるが実態が見えないという印象が残る。
それは、会員数や店舗数といった「積み上げ型の数字」は並んでいても、継続率や投資効率といった質を測る指標が欠けているからだ。

特に、ストック型ビジネスを標榜する以上、LTV・Churn Rate・CAC(CPA)といった基本的な経営指標を無視することはできない。これらは、単なるSaaS専用の用語ではない。「継続前提のビジネス」に共通する、健全性のモノサシなのである。

事業の拡大は、もはや出店数の勝負ではない。
1人の顧客を、いかに継続させ、満足させ、ロイヤルカスタマーに育てるか――その設計図が問われている。

これからのIRには、「説明責任」と「戦略的思考」が求められる。
株主や投資家の視点を真に意識するならば、KPIの再設計は避けて通れない。

定性的な語り口に頼るのではなく数字の言語で語れる企業こそが、これからの競争社会においては益々、真に信頼される存在となり得るだろう。

フィットネス事業の良し悪しを見極める上で最も重要なKPIは定着度を示す退会率であるため、下記関連記事も併せて読了されることをお勧めする。

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